エルメス社は創業から現在まで約170年の長い歴史があります。1837年に創業者ティエリ・エルメスはパリの職人街に高級馬具工房をオープンさせます。当時はナポレオン3世やロシア皇帝などの御用達商となり、王侯貴族にも愛されました。1867年と1879年にはパリ万博で銀賞と金賞を受賞し、1880年に2代目シャルル・エミール・エルメスが現在のパリのエルメス本店に移転させました。
まだその時は鞍の製造や卸、小売を行っていました。1892年に馬具を収納するための「オータクロア」というバッグを製造します。これはバーキンの原型モデルと言われています。
1900年代に入ると馬車から自動車に乗り物が変わります。3代目のエミール・モーリス・エルメスは時代を先取りして商品を多角化し、女性用のバッグやグローブなどを売り始めました。1920年に軍用の幌（ほろ）に付いていたファスナーに目を付け特許を取得し、世界で初めてファスナーが付いた革バッグを作りました。1923年にファスナー付きバッグ「ブガッティ」（のちのボリード）を発表して人気を博します。1935年に「オータクロア」を小型にした「サックフロア」（後のケリーバッグ）を発表します。1937年にはスカーフの自社製造をスタートします。1945年にエルメスのブランドロゴマーク「四輪馬車と従者」の商標を登録し現在に至ります。
1951年にはロベール・デュマ・エルメスが4代目となり、シルクスカーフと香水に力を入れるようになります。特にスカーフはシルクスクリーンの技法を使うようになり、従来の木版とは異なる発色で人気を呼びました。1956年にモナコのグレース妃（グレース・ケリー）が妊娠中のお腹をバックで隠したことから『サックフロア』を『ケリー』という名前にしました。
1947年に香水部門を立ち上げますが、今なお人気の定番香水『カレーシュ』（幌付き四輪馬車の意味）は現在も販売されるベストセラーです。故ケネディ大統領婦人だったジャクリーヌ・ケネディが愛用したことで知られる、『コンスタンス』が（バッグ）1969年に発表されます。このバッグの名前はデザイナーの娘の名前と言われていて、バッグのフロントに付いているHのバックルで有名なデザインです。ジャッキー・オナシスも愛した1品です。1978年にジャン・ルイ・デュマが5代目として就任します。
4代目ロベールの弟子ですが、エルメス入社直後は職人見習いから初め、デザインを担当し、ついにはクリエイティブディレクターとしてブランドを統括するようになりました。1984年に女優ジェーン・バーキンのためのバッグ『バーキン』を発表します。「オータクロア」をもっとカジュアルにアレンジしました。ジェーンが大きなトートバッグに荷物を詰め込んでいるのを見て、社長のデュマが作ったと言われていて、開口部が広く仕切りもないので荷物がたっぷり入ります。1993年に『ケリーアド』を発表します。
これはリュックタイプのケリーで、ケリー本来のイメージを残しつつ縦長にデフォルメされてリュックのストラップが付いたタイプです。カジュアル派の方には今なお大人気のバッグです。この頃同時に、腕時計では『ロケ』『Ｈ』『アーネ』が発表されています。
1990年THE ALFEEのアルバムのディスクジャケットをデザインしたことは記憶に新しい出来事です。これ以降、エルメスはさまざまな企業やデザイナーとコラボレーションすることになります。2001年には銀座ソニービル横にメゾン・エルメスをオープンします。そしてソニーとコラボレーションしたアイボ（ロボット）のキャリーケースを発表しています。
2004年は歴史的な出来事が起こります。最高責任者は血族だったエルメス社で初の一族以外の人材であるパトリック・トマが就任したからです。同じ年にデザイナーがマルタン・マルジェラからジャン・ポール・ゴルチエに変わります。2007年にH BOXという、ビデオ・アート作品のための発表の場を設けます（横浜トリエンナーレ）。旅行鞄のような形をしたアルミニウム合金製の外装の中は、スクリーンと10席ほどの観賞席があり、複数のアーティストの作品が上映されました。2008年にヨウジヤマモトとコラボレーションバッグを発表します。2010年には映画「東京島」にエルメスのスカーフ『カレ』が使われたことから、映画に使用されたスペシャルカラーを販売しました。2011年にジャン・ポール・ゴルチエに代わりクリストフ・ルメールがアートディレクターに就任しました。
2013年にはヒュンダイ自動車とコラボレーションし、『エクウス byエルメス』として発表されました。
最高級車エクウスに内部のインテリアはアイテムの全てがエルメスの手によって吟味されデザインされました。
